「水道水フッ素化に反対しよう」 宮千代加藤内科医院・加藤純二
昨年11月17日、厚生省は水道水のフッ素化を技術支援する方針を明らかにしま
した。フッ素化を実際に行うかどうかは水道を運営する自治体の判断によるそうで、一部の
自治体で実施に踏み切る可能性がでてきました。12月8日の河北新報には「水道水フッ
素化で虫歯予防」という記事があり、その中には「世界56ヶ国で水道水をフッ素化してお
り、安全性と効果は実証済み」、「効果や安全性に関する医学的論争は決着している」との意
見が紹介されていました。日本歯科医師会は12月25日、「条件付き容認」の方針を発
表しました。
インタターネットの検索エンジン(alta
vista)で水道水フッ素化(waterfluoridation)について
検索してみると、英語ではすぐ約四千件のホームページが見つかり、賛否について激
しい論議が続いていることが分かります。
水道水に添加されるのは混合フッ化化合物で、三つの成分だといいます。その約6
割は珪フッ化水素(H2SiF6、ヘキサフルオロ珪酸)で、強酸であり、皮膚に触れる
と腐食作用があります。わずかに電離してフッ化水素を遊離します。そのフッ化水素は反応性に
富み、高濃度ではガラス・石英を侵す性質があります。次いで、約3割は珪フッ化ナトリウ
ム(Na2SiF6、ヘキサフルオロ珪酸ナトリウム)で、珪フッ化水素に水酸化ナトリウムを加え
てできるもの。残り約1割はフッ化ナトリウム(NaF)で、フッ化水素に水酸化ナトリウムを
加えてできるもの。これは毒性が強く、人体には粘膜刺激性や神経毒性があり、取り扱い
には防毒マスクやゴム手袋が必要な物質です。1)。
水道水への添加濃度は0.8ppmとされるそうです。多くの練り歯磨きには数百
から千ppmを越える濃度で添加されています。しかしその濃度は必ずしも商品に表示され
ていません。塗布液には0.9%(9000ppm)溶液が使われており、生理食塩水の
NaClをNaFに置き換えたものに相当し、毒性は全く考慮されていません。食塩(NaC
l)とくらべると、先に述べたようにフッ化ナトリウム(NaF)には強い毒性があります。若い世
代の人々に長期間、繰り返し使用されることを考えると、生殖毒性や胎児毒性、発ガン性など
の慢性毒性の評価は慎重になされなければならないと思います。
いったんフッ素化を実施したが、あとで取りやめた地域・国は多く、ヨーロッパ諸
国では戦後、10〜20年でフッ素化を中止し、現在、フッ素化水道水を用いている人口は
ヨーロッパ大陸でわずか1%だそうです2)。
また気になるのは、フッ素化推進論者の転向です。ニュージーランドでフッ素化推
進の中心的存在であった歯科医ジョン・コフーン博士は、フッ素化の被害と効果への疑問
から、フッ素化反対を主張するようになり、1992年、国際フッ素研究学会雑誌「フルオ
ライド」の編集長になって活動しました。同様に、カナダ歯科医学会会長(トロント大学予防歯
科主任教授)ハーディ・ライムバック博士も最近、反対派に転向しています3)。またか
つて中国でフッ素の国家基準値を決めたプロジェクトチームの責任者であった魏賛道教授は、
中国広州市でのフッ素化被害とフッ素化中止(1983)を報告した著書を昨年出版して
います。その他、多くの団体、専門家が反対しています。
双方に危険だ、いや安全だという根拠となる論文は多数ありますが、無視できない
と思うのは、フッ素化地域でのガンや骨折の増加と、二〇才代の母親から生まれた子供での
ダウン症候群の増加です4)。腎不全の患者では腎臓からのフッ素の排出が低下し、
フッ素が血液に蓄積し、そのため透析液のフッ素濃度は0.2ppmまで下げられて使用さ
れています。食品、練り歯磨きの他に水道生にフッ素が加えられると、一般の人々にもフッ
素の過剰状態が起こる可能性があります。論文の評価には意見があるとしても、フッ素化
についての医学的評価は決着ずみというのは暴論だと思います。
フッ素と同じハロゲン系元素である塩素は水道水に添加されますが、それは公衆衛
生上の目的で伝染病菌を殺菌するためです。虫歯は伝染病ではなく、しかも水道水は飲み
水だけに用いられるものではありません。仮に虫歯予防に効果があり、毒性もないとし
ても、水道水全体へ添加するのは非効率的と言わざるを得ません。水道水のフッ素化は単に
虫歯予防というせまい視野だけで判断すべきではなく、全身的で慢性毒性を考慮した
医学的な論議が必要だと考えます。いったん添加されれば、我々に選択の自由はなく
なるのです。
参考論文;
1)『化学大辞典』共立出版株式会社
2)秋庭賢司.消費者レポート:1137,1138号、2000年12月。
3)村上徹ホームページ
http://user3.allnet.ne.jp/f-poison-alert-net/top.htm
4)Takahasi,K.
Fluoride 31:01, 61-73, 1998.
(仙台市宮城野区)
DATE;
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加藤 純二:fwih0966@mb.infoweb.ne.jp
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水道水フッ素化(3) 加藤純二
水道水フッ素化(2);少し古い論文ですが、東北大学法医学教室の山田、
押田、赤石先生が書かれた論文を紹介します。(序論とフッ素化の部分の
前半で、新薬の臨床試験の部分は省略します。)
「新薬の臨床試験と上水道フッ素化をめぐる法医学的諸問題」
山田文夫、押田茂美、赤石英 『歯界展望』第48巻、第1号・昭和51年7月、
119−123ページ.
医療は人間の生命・健康の維持・増進に有益、不可欠であるが、常に<重大
な危険を内包する業務>であることを忘れてはならない。ことに、新薬、あるい
は疾病の予防法などの試験には、健康人または患者の臨床試験が必要不可欠
であるが、個人の権利と公共の福祉という二律背反を含む深刻な倫理的・法律
的問題を含んでいる。
われわれは社会医学の一部門として、医学・医療に関する諸問題、ことに医事
紛争の研究に取り組んでいるが、その一環として、今回歯科領域における新薬
などの臨床試験の抱えている諸問題を検討してみた。
新薬などの臨床試験 (略)
水道水のフッ化物添加
次に、予防歯科領域において最も重大な問題とされているウ蝕予防法、ことに
水道水のフッ化物添加について検討してみよう。ご承知のように、米国・英国・カ
ナダをはじめ外国では、32ケ国・4750地区・約1億3千万人以上の人々が約
1ppmのフッ化物添加水道水を飲用しており、WHOもその実施を決議している。
一方、わが国では京都山科における13年間の0.6ppmのフッ素添加実験、お
よび三重県朝日町の3年9ケ月の0.6ppmの添加の2例が行われたのみである。
フッ化物を応用するウ蝕予防手段として、上水道のフッ化物添加は安全・簡易・
かつ安価に多数の住民に一度に応用される点で、公衆衛生レベルの施策として
最も劇的な、そして画期的な方法であるとされているが、利点・長所については
多数の論文がみられるので、それは割愛し、その問題点を検討してみよう。
まずこの方法の臨床効果について、外国の事例では永久歯の50〜70%の
抑制効果があり、乳歯ではやや低いといわれている(表4;略)。一方、京都市山科
における抑制効果は、口腔衛生学会上水道フッ素化調査委員会では、「DMF者率、
1人平均DMF歯率ともに対照地区より低率を示す傾向があり、第一大臼歯のウ蝕
をやや低下せしめたようである」とのことである。ここで重要なことは、水道水の
フッ素化によってもなおかつ予防不能のウ蝕が残存することである。
これはう蝕の発現因子として、
(1)
ウ蝕の感受性ある歯質
(2) 食品中の炭水化物
(3)
口腔細菌
の三者が必要とされているので、単一因子の予防策によっては予防効果に限界が
あり、ウ蝕の抑制・予防の機序の詳細についていまだ不明の部分もあるためであろ
う。ポリオ生ワクチンにより、日本ではポリオ患者がほとんど絶滅したような臨床効
果にははるかに及ばないことを示している。すなわち、”法的強制”に結びつくほどの
絶大な効果はみとめられないことが注目される。
次に、フッ化物の水道水添加の安全性に関しては、生理的になんらの有害性も認
められないとされているが、水道水は小児のみが飲用するものではなく、妊産婦や
老人、さらに代謝系にさまざまな異常がみられる病人も飲用することに注目しなけれ
ばならない。従来ややもすると、児童・生徒のみに中毒症状が現れるかどうかに目が
向けられている傾向があるが、実はウ蝕予防の恩恵にあずからない成人や病人に
ついての悪影響はいっさい認められないというのであろうか。最近やかましく議論
されている慢性中毒、あるいは食品添加物による催奇形テストにみられるような
慎重な考察も必要であろう。
上水道にフッ化物が添加された場合、ウ蝕予防の恩恵にあずかる可能性がある
子供たちが利用する水道水はわずか1%にも満たないとみられており(ある統計に
よると、上水道の約40%は漏水などにより失われ、計量されるのは60%にすぎ
ず、そのうち約60%が家庭用に供給される。また家庭内では、風呂、洗濯、炊事など
に多量に使用され、わずか1%以下の1〜2Lが飲用されるのみである)、他の99%
以上の水はなんら恩恵のない大人に飲用されたり、漏水として失われたり、しかも
その大半は排水として下水道へ流れてゆくのである。
たとえば、人口50万人の都市で水道水にフッ化物を1ppm添加すると、年に70
トンのフッ化物が投入され、これらのほとんどすべては下水道などより環境汚染物質
として蓄積されることになる。(以下、次回に。)
DATE;
3/29/2001
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宮千代加藤内科医院 TEL:022-235-8876
FAX:022-235-8878
加藤 純二:fwih0966@mb.infoweb.ne.jp
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山田、押田、赤石先生の水道水フッ素化に反対する論文の後半です。
フッ素の体内摂取量については従来から議論のあるところであるが、食物ある
いは飲用水の摂取量の個人的差異も気になる点である。たとえば、水を平均
人の2倍飲用する生徒は少数ながら存在することは確実であり、そうすると倍
量のフッ素添加を受けたことと同じになり、中毒発症の確率は高まることになる。
いずれにせよ、フッ素を高濃度に含有している食品の消化・吸収・代謝の詳細
なデータが待たれるところである。
フッ素の慢性中毒の1つとして斑状歯が取り上げられているが、フッ化物添加
水道水による斑状歯は、添加地区における自然発生の斑状歯との判別が実際
上困難であるので、最近の医事紛争の動向からみると両者すべてが損害賠償
の対照となるであろう。人口10万人の児童・生徒のフッ素化を施行したとすると、
斑状歯は400〜2500人(4〜25%)とみられ、たとえば1歯あたり5万円の
治療費として、約8000万円〜5億円を要することになる。なお、この額には慰謝
料が含まれないことに注意しなければならない。
添加装置を設備すればフッ化物は安価であるとされているが、長い目でみれば、
このようなフッ化物添加から付随的に派生してくる可能性のある添加事故による
急性中毒(頻度は低いいわれているが)、あるいは環境汚染に伴う漁業補償など
の損害賠償の可能性をも考慮すれば、はたして安価であるかどうか疑問であろう。
なおフッ化物添加法とフッ素定量によるチェックシステムは近年長足の進歩がみ
られ、良心的な検査員が確保されれば問題はないようであるが、現在の水道行政
では、はたしてどうであろうか。
現在、強制的予防接種、たとえば種痘は、予防効果と接種事故との関連でその
存続が再検討されている。フッ化物の水道水添加についても、「反対者は比較的
低収入群であって、職業も中程度か低レベルの人たちであり、大部分はハイスク
ールを終了していなかった」ときめつけるだけではなく、「致死的疾病でないウ蝕
の予防に効果が著名でないまま全住民にフッ素飲用を強制し、フッ素を含む無機
質の生態学的調査がないまま環境汚染物質の集積がなされる」という指摘に十分
答えられる科学的説明、および住民・社会から十分な納得が得られるよう努力がな
されなければ、広汎な医事紛争に発展する危険性をはらんでいるといえよう。
これらのことより水道水のフッ素添加に関しては、日本ではまだ十分な”臨床試
験”を経ていないため、厳重な監視のもとに予防効果と安全性を検定する段階に
あるのではないかと思われる。したがって、世界保健機構(WHO)総会において
上水道フッ素化推進の決議が採択され、欧米諸国をはじめ世界で広く実施されて
いるからと権威主義的に主張することは勝手であるが、万一取り返しのつかない
損害が発生し、紛争に発展したとき、最後までどのような責任をとるつもりであろ
うか。
一方、某県では48地区・350施設で広くフッ化物による洗口法を施行している
が、現在口腔衛生学会において、いかなる濃度でどのくらいの頻度で施行するのがより
有効であるのかが活発に議論されているのに、この措置が”臨床的研究の段階”で
はなく、”予防的行政的措置”であると強弁するのは、重大な論理の飛躍があるとい
わねばならない。
おわりに
以上、常日ごろ医療事故関係の鑑定業務などを通じて社会との密接なつながりを
もっている法医学の立場から、取り返しのつかない、償いきれない損害の発生と
トラブルを未然に防ぐこともわれわれの重大な任務の一つと考え、あえて問題提起
をした次第である。(この論文の要旨は第24回口腔衛生学会総会(昭和50年10
月11日、名古屋)で発表した。)
文献(略)
DATE;
3/30/2001
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宮千代加藤内科医院 加藤 純二:fwih0966@mb.infoweb.ne.jp